貧血と言えば、女性がかかりやすい疾患の一つとして知られ、治療をしている(鉄剤を服用している)方以外にも、潜在的に貧血症状を抱えている人は少なくありません。重篤でない場合や自覚症状に乏しい場合もあるため、対処されずに放置されることも多い症状です。
世界保健機関(WHO)では、男性でヘモグロビン値が13mg/dl、女性で12mg/dl未満を貧血と定義しています。別のコラムでも触れましたが「隠れ貧血」は、放置すると生活の質(QOL)の低下に繋がるだけでなく、別の疾患を引き起こす原因にもなりかねません。特に問題が起こりやすい妊婦の貧血は、低体重児を出生するリスクが1.29倍、早産のリスクも1.21倍に上昇するという調査結果もあり、生まれてくる赤ちゃんの健康を脅かす危険もあるため、注意が必要です。
貧血(赤血球数の減少)を引き起こす原因は大きく3つに区分することができます。それぞれの原因ごとに、体内ではどのようなことが起こっているのかを、少し掘り下げてみましょう。
貧血を引き起こす、主な原因とは?
その1:赤血球産生が何らかの理由で低下
まず第一に考えられるのは、腎機能の低下です。赤血球産生を促進する造血因子の一つ「エリスロポエチン」は、主に腎臓で生成されると言われています。そのため、腎臓が何らかの影響を受け機能低下すると腎性貧血を引き起こします。
また、赤血球を生成するための材料となるビタミンB12や葉酸、鉄分などの栄養素が不足すると、赤血球産生に異常をきたし、結果としてヘモグロビン値が低下、貧血症状を引き起こします。
加えて造血幹細胞に問題が生じている場合も、同様に貧血を招くことがあります。
その2:赤血球が何らかの理由で破壊される
免疫が暴走し赤血球を破壊する溶血性貧血や、先天性の赤血球膜異常など、赤血球の破壊亢進が原因となり貧血が起こることもあります。
その3:出血
けがや手術などの外的要因や、消化管の潰瘍やがんなどが貧血を誘発することもあります。
特に女性は、定期的な生理出血を伴うため、慢性的な貧血症状に陥りやすいと言われています。
貧血症状を悪化させる、鉄欠乏性貧血
貧血には様々な種類がありますが、全体の3分の2以上を占めているのは「鉄欠乏性貧血」だと言われ、日本女性の10人に1人が悩んでいるとも試算されています。
鉄は赤血球の中の血色素「ヘモグロビン」産生の材料になります。ヘモグロビンは、肺の中で酸素と結合し、体内の様々な組織へ酸素を運搬します。そして各組織は、酸素をエネルギーとして利用します。つまり、鉄不足になり、ヘモグロビン量が減少すると、体内の各細胞に運搬される酸素も減少し、体内が酸欠状態になり、様々な不具合が起こるのです。
通常、私たちの体内には、成人男性で約3〜3.5g、成人女性は2〜2.5gの鉄を保持しています。そのうちヘモグロビン産生に使用される鉄は約60%で、血液中に存在します。残りの40%程度は、肝臓や脾臓に「貯蔵鉄」として蓄えられ、血中のヘモグロビンが足りなくなったときのために備蓄されていますが、この「貯蔵鉄」が充分でない人も多いと言われています。(血液検査では「フェリチン値」で貯蔵鉄の量を推定します)
貯蔵鉄が足りなくなる要因は、鉄の摂取量不足以外にも、過度なスポーツによる鉄排泄の増大、月経や妊娠・出産、授乳による需要の増加などが挙げられます。
貧血対策には、まず「材料不足解消」を
貧血の原因となる基礎疾患がある場合は、まず医療機関で適切な治療を受ける必要があります。
一方、新型栄養失調などの食生活に由来する場合は、食事を見直すことで症状が改善することが多いものです。その場合、ビタミンB12や葉酸、そして鉄分などのミネラルを豊富に含む食材を、日頃から積極的に取り入れてゆく必要があります。
食材から摂取する鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄と呼ばれる種類があり、肉や魚に多く含まれるヘム鉄のほうが吸収率が高いと言われています。しかし必要十分な鉄分をすべて動物性食品から摂取すると、同時に脂質を多く摂ることとなり、栄養バランスが悪くなる可能性も。ビタミンや食物繊維を同時に摂れる野菜や豆類を用いながら、バランスよく鉄分を摂取しましょう。
調理の際に、鉄の鍋やフライパン、鉄瓶を使うのも良い方法です。
鉄欠乏性貧血が深刻な社会問題となっていたカンボジアでは、その土地で幸運のシンボルとして愛する、「カントロップ」という魚を模した鉄の固まり「Lucky Iron Fish」を、調理に使うことで鉄欠乏性貧血が50パーセント減少したという事例があります。
同じようなアイテムがライフスタイルショップで売られていることもありますので、買ってためすのもよいですし、お茶を飲む時は南部鉄の急須で湯を沸かすなども、同様の効果が得られます。
「ラクトフェリン」「腸内環境改善による吸収率向上」も貧血改善に効果
腸内環境を改善する効果をもつ成分として話題のラクトフェリンには、貧血症状の改善にも有意に作用することが、研究の結果から判っています。ラクトフェリンは身体に害を及ぼす余分な鉄を排出する一方で、体内で鉄分が不足している時には腸内での鉄吸収を促進する作用があるというのです。
貧血気味の方や鉄分不足が気になる方に、適した健康作用がある成分と言えそうですね。
また近年、京都大学を中心とした研究発表によると、腸管上皮細胞にあるRNA分解酵素Regnase-1が、貧血時に鉄の吸収を促進することがわかったそうです。
身体に必要な栄養を峻別し、健康維持に貢献する腸内環境の働きには、驚かされることが多いですね!
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