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腸のおもしろ話 第7回 腸内環境を侮るなかれ。糖尿病リスクを腸活で減らす(前編)

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皆さま、ご無沙汰しております。私はなんと今!日本を飛び出し、アメリカのニューヨーク州バッファローというところで研究生活しております。細菌とヒトの健康とのかかわりについて理解を深める修行のためですが、日々、英語の高い壁にぶち当たりつつも、なんとかサバイブしております。今回のテーマはアメリカでも大きな問題となっている糖尿病について、腸内細菌との関係を交えながらお話ししていきたいと思います。

糖尿病大国・日本!糖尿病人口が950万人に増加

糖尿病の患者数は世界で増え続けている傾向にあり、日本も同じく年々患者数が増えています。厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査結果」の推計では、糖尿病が強く疑われる成人男女が約950万人に上ることがあきらかになりました。糖尿病の有病数は5年に1回推計しており、前回(2007年)から約60万人増えたことになります。(※1)糖尿病には膵臓のB細胞が壊れてしまい、インスリンの分泌ができなくなる1型糖尿病と、インスリンの作用不足で起きる生活習慣病である2型糖尿病の2種類があります。日本では2型糖尿病の増加が目立っているのが現状です。

日本人は糖尿病になりやすい?環境順応のための進化が影響している可能性も

糖尿病の発症には、乱れた生活習慣の積み重ねが大きく影響していると言われており、その要因の1つに「肥満」が挙げられます。
肥満の人口が日本よりも多いアメリカ。しかし糖尿病の人口も多いかと思えば、なんとそうでもないんです。国の人口における糖尿病人口の割合で比較すると、アメリカより日本の方が多いと言うと、驚かれる方も多いかもしれませんね。

ところで「倹約遺伝子」という言葉を聞いたことはありますか?これは氷河期に人類が数少ない食料から栄養をより効率よく蓄積できるように変異した遺伝子のことで、特に東アジア人に多いとされています。このため、日本人は欧米人に比べ、軽度の栄養過摂取や、運動不足で肥満になりやすく、しかも内臓に脂肪が蓄積しやすいという特徴がある、ということが近年の研究から分かってきました。日本人の約3分の1がこの倹約遺伝子を持っていて、基礎代謝(安静に寝ているときに消費するエネルギー)が倹約遺伝子をもっていない人と比べ、200kcalも低いため、同じ食事量や運動量であっても太りやすく、痩せにくいという性質があると言われています。

腸内環境が糖尿病発症に関与。血糖値に影響を及ぼす腸内細菌の存在も

糖尿病発症に影響を及ぼす因子として注目されているのが、腸内細菌です。腸内細菌と肥満・糖尿病の関係では、以下のことが考えられます。

一つ目が”腸管バリア”です。これは以前のコラムでも触れました。さまざまな菌が共生する腸内環境では、悪玉菌が優勢となると腸内細菌叢が乱れます。すると低下した腸管のバリア機能をすり抜け、血液中にさまざまな物質が流れ込みます。それらの中には肝臓などの臓器で慢性炎症を引き起こす物質などが含まれていることも。結果インスリンの分泌量が増え、血液中のインスリン濃度が高まります。そうなるとさらに太りやすくなり、高血圧や肥満など、いわゆるメタボリックシンドロームに。ちょっと複雑なメカニズムですが、こうした状態が糖尿病のリスクをも上昇させるのです。
このような状態を防ぐには、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が、重要な役割を果たします。短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸)は、一部の腸内細菌が食物繊維などの難消化性成分をエサにして作り出しています。つまりカロリーの高い・低いだけでなく、食事の質を見直すことは糖尿病対策にとても重要です。

次にインスリン抵抗性と腸内細菌の関係性について。インスリン抵抗性とは、簡単に言うと「インスリンの効きやすさ」のことで、糖尿病あるいは糖尿病予備群の人々は、健康な人と同量のインスリンが分泌されたとしても効果に差があり、血糖値を下げるためにより多くのインスリンを必要とします。
インスリン抵抗性(糖尿病ではない)を示す人たちの血液と腸内細菌を調べたところ、血液中の物質「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」と、2つの腸内細菌(Prevotella copri, Bacteroides vulgatus)に関係性のあることが明らかになりました。
この2つの腸内細菌は、たんぱく質代謝やグルコース(糖)代謝に大きく関わる分岐鎖アミノ酸の産生に関わっているため、糖尿病や糖代謝異常を知る手がかりとして、今後研究が進んでゆくと考えられます。
また動物実験でPrevotella copriをマウスに投与すると血液中の分岐鎖アミノ酸量の増加が認められ、インスリン抵抗性が高まることが確認されており、新しい糖尿病治療の確立にも、今後腸内環境の改善が重要な位置を占めると考えられています。 (※2)

このように、腸内細菌と糖尿病の関係が明らかになる中で、当然「肥満や糖尿病によい腸内細菌はあるのだろうか?」という疑問が湧いてきます。現在そういった菌の候補はいくつか示されています(Akkermancia, Faecalibacterium, Bifidobacteriumなど(※3))。こういった有用菌を増やす・育てる方法として食物繊維の豊富な食材を食べる(プレバイオティクス)ことが有効だという例は、多数示されています。
また、Akkermanciaについては、油の種類によってもその増え方が異なるという報告もあり、ラードのような動物性の油脂ではなく、オメガ脂肪酸を含む魚油で増加したという報告がされています(※4)

糖尿病は予防出来る!腸内環境を整え、糖尿病にならない身体づくり

ここまで触れてきたように、腸内細菌は肥満や糖尿病との関わりから注目度が高くなっています。このような高い関わりから、腸内細菌をコントロールすることで、糖尿病や肥満の予防・治療の役立てようというのも当然の流れです。方法の一つとして、普段の食事の中では食物繊維の摂取を増やすために、主食を玄米にスイッチする方法も有用と考えられます。

高食物繊維食に関するサンスターの調査結果

下記の2つのグラフは、滋賀医科大学とサンスターが行った臨床試験で分かった興味深いデータです。
肥満や糖尿病、糖尿病予備群21名に対し、2カ月間脂肪分を抑えた高食物繊維メニューを1日3回提供。1日の摂取エネルギーについては、スタート時の体重が維持できるカロリーを個別に算出し、それに応じた量を摂取してもらい、臨床試験前後の数値変化を観察しました。また、元の食事に戻して6カ月後の数値も観察したところ……

結果、高食物繊維を中心とした食事を2ヶ月間継続すると、血糖値・脂質代謝・体重・腹囲などのほとんどの数字に大幅な改善が見られました。この試験により、『食事のカロリーを無理に減らすことなく、糖尿病改善につながる食生活の鍵は食物繊維にある』ということが示唆されました。

腸内細菌は、ヒトの体のもう一つの臓器ともいわれており、体の健康維持の中で、非常に重要な役割を担っています。腸内細菌という集団を、どう味方につけるか? その手段として、普段私たちが口にする食べ物・食事は大きなウエイトを占めています。腸内細菌を味方につけ、糖尿病や肥満などのリスクを遠ざけるため、食事の質の向上に着目してゆきましょう。

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善玉菌(有用菌)は腸に定着しないってほんと?

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腸内の善玉菌を増やして定着させるには、食事の方法にもコツがあるようです。

 腸内細菌叢はお母さんから遺伝するってほんと?

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赤ちゃんが母体を出て外界で元気に育っていくために、腸内細菌も大切な役割を果たしているんですよ。

  • (※1)平成26年患者調査の概況(厚生労働省)
  • (※2)Nature Vol.535 ;535(7612):376-81
    "Human gut microbes impact host serum metabolome and insulin sensitivity."
    Pedersen HK,/// Pedersen O.
  • (※3)Increased gut microbiota diversity and abundance of Faecalibacterium prausnitzii and Akkermansia after fasting: a pilot study.
    Remely M, Hippe B, Geretschlaeger I, Stegmayer S, Hoefinger I, Haslberger A.
    Wien Klin Wochenschr. 2015 May;127(9-10):394-8.
  • (※4)Cell Metabolism Volume 22, Issue 4, 6 October 2015, Pages 658?668
    "Crosstalk between Gut Microbiota and Dietary Lipids Aggravates WAT Inflammation through TLR Signaling"
    Robert Caesar1, , , Valentina Tremaroli1, Petia Kovatcheva-Datchary1, Patrice D. Cani2, Fredrik Backhed1, 3