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いにしえの人々が命を託した湯。四万温泉・積善館

もっと見るタグ: 四万温泉, 旅館, 温泉, 湯治, 湯治宿, 癒されスポット探訪, 群馬, 草津

[群馬・四万温泉] 四季折々、美しい表情を見せる積善館

[群馬・四万温泉] 四季折々、美しい表情を見せる積善館

日本屈指の温泉地として知られる群馬県。その4大泉源のひとつに名を連ねる四万(しま)温泉は、国民保養温泉地の第一号に指定された由緒ある温泉地です。

「医術の充分でない時代、庶民にとって、温泉は不調を治す唯一無二とも言える方法でした。人々はなんとか病を治そうと、藁にもすがる思いで「湯治場=温泉」に来ていました。温泉の目的が観光・歓楽となったのは、ここ近年のことなのです。」と、話してくださったのは四万温泉 積善館亭主・黒澤氏。

300年以上の歴史を持つ積善館。黒澤氏は、この歴史を、後世に紡いでゆくことを考えた時、温泉をめぐる歴史や発祥に目を向け、原点に立ち戻ることが大切だと感じたと言います。
豪華さやエンタテインメントだけでなく、土地に湧き出る優れた泉質を第一に、心安く療養に勤しめるシンプルな滞在スタイルを。これが「現代の湯治宿」として、積善館が新たにした方針でした。

「草津の仕上げ湯」として愛される、柔らかな泉質

四万温泉の地名は「四万の湯が『四万(よんまん)の病を癒す霊泉』である」という、古くからの言い伝えに由来すると言われています。

ゆかりの深い近隣の名湯・草津は、皮膚疾患などに効果が高い温泉です。草津といえば「湯もみ」という習慣があることでも知られていますが、これは湯を揉む(かき回す)ことで酸性度を和らげ、入浴に適した泉質にしなければならないほど、成分濃度が高い証でもあります。つまり草津での湯治は、この強力な”湯力(ゆぢから)”を借りた、荒療治となることも多かったそうです。

一方、四万の泉質はナトリウム・カルシウム・塩化物硫酸塩の温泉で、草津に比べ、柔らかな泉質が特長です。草津での湯治に耐えた肌をいたわる目的で四万に立ち寄り、「草津の仕上げ湯」として親しまれていたそうです。このことからも、四万の湯の優れた泉質が、人々の癒やしであったことがわかります。

四万川の豊かな自然と潤沢な水量。温泉質を微量に含んだ水色の美しさが印象的

情緒をたたえた、日本最古の木造湯宿建築

四季折々美しい表情を見せる積善館は、日本最古の木造湯宿として群馬県文化財に指定され、建築物としても史跡的価値を有しています。300年を超える建物が、今なお現役で湯宿として利用出来るという点でも、大変貴重な場所です。

中でも、昭和5年に建造された「元禄の湯」は、その様式美が見事。アーチ型の窓から差し込む陽光が、タイル張りの床と水平に並ぶ石造りの浴槽に映り込む様子はとても幻想的で、お湯の効能を潤色するような優美な雰囲気が醸し出されています。

四万の源泉は、約80年前に山肌に降り注いだ雨が湧き出たもの。遠い月日を旅してきたお湯は、活きた成分を豊富に含むパワーの源といえる

湯治用の客室は、簡素な宿泊を旨としていて、寝具の上げ下げなど宿泊客自身が行うなど、ごく日常生活に近い滞在スタイルです。(積善館には湯治宿としての利用する本館以外に、「山荘」「佳松亭」という、旅館棟も存在します。)

  • 1~2名様用のお部屋。一人旅での利用も近年多くあるとか

  • 6名様用のお部屋。ご家族での滞在にぴったり

日々に寄り添う、素朴で滋味豊かな食事

その昔、療養を目的とした長期滞在は、日々の暮らしの延長にあるという考えから、湯治宿のお食事は自炊が基本でした。 積善館の湯治宿泊プランでは、当時のコンセプトを踏襲しながら、滋養のあるお食事を朝晩2食提供しています。近隣で採れる山菜や蕎麦などの農産物をふんだんに採り入れた彩り豊かなお食事が、積善館の名前の入ったお重で楽しめます。

  • お重の蓋には積善館の名前が刻印されています

  • お夕食のメニュー例。上下2段のお重が開く目にも楽しいお弁当。温かいごはんとお味噌汁が気持ちをほっとさせてくれます

“温泉は命のふるさと” ーー 積善館亭主の歴史ツアーも人気

「生命の発祥は40億年前に遡り、海で誕生したといわれています。そして温泉には、海と同様に多くの有機成分と水、そして熱量がある。つまり温泉には、私たちの生命のもととなるものがある。いわばそれは”命のふるさと”と言えるのではないでしょうか。」

と、穏やかに話す、積善館亭主・黒澤氏。
奇遇にも取材日の前後に『哺乳類における「硫黄呼吸」を発見 – 酸素に依存しないエネルギー代謝のメカニズムを解明 』という学術発表を目にしたこともあり、大いに納得するものがありました。

黒澤氏が在館の時には、湯治に訪れたお客さまを対象に四万温泉の歴史などをお話する「歴史ツアー」に参加するチャンスも。(開催は不定期。訪問の折には受付で歴史ツアーの開催是非についてお問い合わせを)

いにしえより人々を癒やしてきた温泉の恵み。誰しもが経験的に知り得ていた温泉の健康効果が、近年様々な研究によって解き明かされつつあります。温泉地の美しい自然景観を愛で、湯を嗜む。いにしえの人が温泉に託した命の希望に想いを馳せて、命の洗濯をする。温泉で過ごす時間が、日常をより健やかなものにしてくれる理由がわかった気がします。

2017年11月1日

四万温泉 積善館(本館)

※湯治宿として営業する本館以外に、懐石旅館「山荘」「佳松亭」でのご宿泊もお楽しみ頂けます。

定休日 あり(年2回)
交通 〒377-0601 群馬県吾妻郡中之条町四万甲4236 (地図
電話 TEL 0279-64-2101
WEBサイト http://www.sekizenkan.co.jp/
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